星朱音さんの日記

案外、酒酔い日記と言える。

ソルティードッグと独り言。

2018/12/7 (木)17:37

 

神保町喫茶店Sにて。

 

何か自分の手を使ってモノを書こうと思いペンを手に取ったとき、何かを書こうと思ったからそうした筈なのに、なにを書けば良いのやら、頭の中で分からなくなってしまうことが多い。その戸惑いと遠慮に近い躊躇は、母国語以外の言語を用いて会話する際に、次に自分が放つ言葉を全身で構成しようと努めている、その過程で味わう不自由さに似ている。

 

ふう、とここまで書いて一息。店内のBGMはビートルズだ。ここで村上春樹さながらに曲名を(さりげなく)書き添えることができない自分にある種の悔しさを覚えるが、着席後初めて目を合わせたSちゃんが歌を口ずさんでいて、「ビートルズ、流れてるね。」とお話しできたので満足だ。

 

これ、実はテレパシー。なんだ、私も超能力使えるじゃん、と得意げになりながら溶けた氷で薄まったアイスコーヒーを口に含む。

 

私の左手(麻雀で言えば上家)(得意げ)(自分の記憶に若干の不信感)のカウンターに居るSちゃんが、「”クリソアオトソーダスイアカ”です。」みたいな呪文を唱えながら、綺麗な色の飲み物を前に差し出した。なんだ、Sちゃんも魔法使い見習いの修行ちゃんと積んでるじゃん、とシャーペンで綴る自分が可笑しくて、楽しい気分になってくる。

 

そして私はソルティードッグを注文する機会を伺っている最中だ。隣の席が空席だから、これはチャンス!とばかりにSちゃんに注文したら、「注文は向こうに…。」と言い返され恥ずかしくなった。

 

恥ずかしさを押し隠すように記憶の記録をしていたため、Sちゃんの手元を見ることを忘れてしまった。忘れたと言えば元芸人の店員さんの名前も忘れてしまったのだけれど、彼と思わしき人物と二度も目があってしまって恥ずかしい。

 

ああ、せっかく空いたと思っていた左側の席にお客さんが来てしまった。Sちゃんを盗み見ることがしづらくなったので悲しい。

 

Eight Days A Weekが流れ始めた。これはわかるよ、私。Sちゃんに「かわいい曲なんだよ」と説明してもらいながら何度も一緒に聴いた曲だから。一人のときも何度も聴いたし。

 

ソルティードッグすごく美味しい!でもすごく塩っぱい!(…そういうお酒だった。)そう言えば入店したときは上の席が満席で、下に通されたわけだけど、店員さんに「空いたら上に…」と言って移動してきたこの席は神席と言うのは言い過ぎだけど、良い席だった。

 

一口飲んだだけなのに酔いが回っている気がする。そうだ、お水お水と思い出して、小さなコップに注がれたお水を飲んだ。それから、書きたかったことも思い出しました。

 

私がこの席に来たときに隣に座っていた女の子3人組がSちゃんのことをチラチラ見ながらお話していた。私は吉本ばななの『キッチン』を読んでるフリをしながら盗み聞きしていたわけだけど、小声で話す彼女たちの会話から聞き取れた内容はこんな感じだ。

 

「氷、すごいね?カッカッて(動作を小さく真似しながら)。」

「ね!もうロボットみたいなモンなんだね?」

「働くとしたら中の人と外の人どっちが良い?」

「えーっ、でも私、あんまり働きたくないかも。ここ狭いし。」

「そうだね」

 

私が注意を払って会話を聞いた限りでは、「あの人かっこいいね。」の話はしてなかったよ。Sちゃん、残念でした!(カッコいいから話題に上がったのかもね!)でも、やっぱり客の話題になるくらいには目立つ役割のお仕事なんだね。

 

正直、移動時間含めた労働時間や、賃金の待遇云々に私も問題意識を持っていたので、今後此処S(喫茶店)で働き続けることに対して不安を抱いていたのだけれど、カウンターで一生懸命氷を砕いたり、洗い物をしたり、はっきりとした声で呪文を唱えたりしている姿を見ていると(実際は物理的に姿を見つめていないから、視覚以外の感覚で見守っているだけなのだが)、とても格好良くて、(ねず公が出る和式便所の掃除も大変だとは思うのだけれど)こんなところで働いている彼氏が自慢で自慢で仕方がなくて、堪らない気持ちになってしまう。

 

ソルティードッグが薄まって、塩加減が落ち着いてきてとても美味しい。三度目のお手洗いで離席し、用を済ませて手を洗おうと目の前の鏡を見ると、心なしか頬が紅潮していた。

 

それはフィアンセの働く姿に惚れ直し、気分が高揚した所為なのか、ソルティードッグに含まれるウォッカの所為なのかはっきりとは判らなかったが、恐らくそのどちらもが原因になっているのだろう(なんかこの一文、某村上氏っぽくない?)(そう自負するには若干稚拙が過ぎるか)(今くわえ煙草したらヨダレ垂れた)(誰にも見られていないことを祈る)。本当にウケる。現在20時21分。

 

ここまでそれ以外のことを一切せずにずっと書き続けていたわけではないが、それにしても独り言日記と3時間近く向き合った前例はないため、少し驚いている。久しぶりの書きモノを純粋に楽しんでいるのだろう。店員さんの目を盗んで取るアイコンタクトにワクワクしている。

 

先程のアルバイトの話に戻る。いずれにせよ、いつかはバイトを辞めなければいけないから、ここを辞める時期については彼自身の判断に任せようと思う。いつ辞めたとしても、彼が私と付き合い始めたのは大学三年生に進級した2018年5月21日で、その年に神保町Sでアルバイトをしていたという事実は記憶にも記録にも残されている。

 

なんと言っても、彼にここで働くきっかけを与えたのは、彼女であるこの私であることがなんとも誇らしい。

 

この経験がSちゃんの一部に、そしてその他単なる思い出でも、年取ってからの懐旧のオカズでも、今後も続く楽しい未来の余興にでもなっていたら素敵だなと思いましたマル(。)そうそう、元お笑い芸人の店員さんの名前は、Tさんだった。

 

バイオレットフィズもすごく美味でした!21:14、オワリ。